■ご相談のきっかけ
「妻に対して、きつく当たってしまう自覚があります。
自分でも直したいのですが、もう自力では限界だと思い来ました。」
初回の面談で、男性ははっきりとそう話されました。
ご本人は、いわゆる“怒りやすい人”ではありません。
会社では管理職として長年勤務し、部下からも慕われている上司です。
メンタルヘルス・マネジメントの資格も取得しており、部下の相談にも適切に対応されていました。
職場では冷静で、配慮ができる人物。
トラブルもほとんどありません。
しかし家庭では、状況が違っていました。
奥様の家事のやり方が気になると、つい口を出してしまう。
洗濯の干し方を見てはやり直し、食器の洗い方が気になっては再度自分で洗い直す。
「こうした方がいい」
「普通はこうする」
「なぜできないのか」
強く叱るつもりはありません。
ただ“正そうとしている”だけのつもりでした。
けれど奥様は次第に元気がなくなり、
体調を崩して寝込むことも増えていきました。
男性は言います。
「妻のことは大切です。
でも、見ているとどうしても気になってしまうんです。」
■カウンセリングで見えてきたこと
お話を伺うと、男性は非常に責任感が強く、
仕事でも家庭でも「きちんとしていたい」という思いが強い方でした。
そして特徴的だったのが、
“〜すべき”という考え方(ベキ思考) の強さでした。
・家事はこうあるべき
・こうするのが正しい
・間違いは直した方がいい
会社では、この考え方が能力として活かされていました。
しかし家庭では、奥様にとって「評価され続ける状態」になっていました。
つまり問題は、
怒りではなく 正しさを伝え続けてしまう関わり方 にありました。
■取り組んだこと
カウンセリングでは、
性格を変えることを目標にしませんでした。
最初に行ったのは、
“正しいかどうか”の判断を一度保留する練習です。
たとえば、
気になったとき
・すぐ指摘しない
・手を出さない
・そのままにしてみる
最初は強い違和感があったそうです。
「間違いに気づいているのに、何もしないのは落ち着かない」
それでも、自宅で小さな訓練を続けていただきました。
■変化の始まり
数週間後、男性は少し驚いた様子で話されました。
「何も言わないと、妻の様子が違うんです。」
それまでは、家事のたびに緊張感がありました。
しかし口出しが減ると、奥様の表情が柔らいできました。
男性自身も気づきます。
「家が静かになったのではなく、穏やかになりました。」
■現在の様子
現在は、家事に対して指摘をすることはほとんどなくなりました。
洗濯をやり直すことも、食器を洗い直すこともなくなっています。
その結果、奥様との自然な会話が少しずつ増えてきました。
「特別な話をしているわけではありません。
でも、以前より普通に話せています。」
男性はそう話されました。
■カウンセラーより
この方は、愛情がなかったわけではありません。
むしろ大切に思う気持ちが強かったからこそ、
“良かれと思って”関わり続けていました。
しかし家庭では、正しさの指摘が積み重なると、
相手は評価され続けている感覚になります。
関係の変化は、
大きな努力からではなく、
「言わない」「直さない」という小さな行動から始まりました。
自分の性格を変えるのではなく、
関わり方を少し変えることで、
関係の空気が変わることがあります。
同じように「止めたいのに止められない」と感じている方でも、
現実的な方法から始めることで、関係が動き出す可能性があります。